素粒子物理学
我々の宇宙は今どのような仕組みになっていて、どのようにして今の形に発展したのか、という疑問は我々人類が持つ根源的な問いかけです。前者の問いに答えるためには、物質を構成する基本要素を研究する必要があります。これを素粒子物理学と言います。また後者の問いに答えるためには、宇宙の始まりと同じ高いエネルギーにおける物理現象を研究することが必要となります。物理現象のエネルギーを上げてゆくということはどういうことでしょうか。普通の物質のエネルギーを上げて行くといずれはバラバラの分子からなるガスになります。さらにエネルギーを上げると、分子はバラバラの原子に分解するでしょう。さらにエネルギーを上げると、原子が電子と原子核に分解したプラズマになります。つまり、エネルギーを上げるということは物質の構成要素を細かくバラバラにして行くことに相当します。物質を構成する基本要素である素粒子の研究を通して、宇宙初期の高いエネルギー状態で何が起こったのかを垣間見ることもできるのです。
素粒子の研究は20世紀に入ってから大きく発展しました。加速器技術などに支えられた様々な新発見や、革新的な理論の進展を得て、2012年にヒッグス粒子が欧州CERN研究所のLHCで発見されることによって素粒子の標準理論として完成します。このようにして確立した標準理論は緻密で素晴らしい理論であり、それを学ぶ者は必ず興奮と感動を覚えるのです。ですがこれで素粒子物理学が終了したわけではありません。実は素粒子の標準理論では説明できない奇妙な事柄が既にいくつも見つかっています。例えば、現在の宇宙に反物質が存在しないという観測事実は素粒子の標準理論だけでは説明できません。暗黒物質や暗黒エネルギーの説明もできません。ニュートリノの質量だけが他の素粒子と比べて非常に軽い理由も説明できません。宇宙が平坦である理由も、仮説はありますがしっかりとは実証されていません。宇宙はまだまだわからないことだらけです。実験や観測が進めば、予想もしなかった新発見は今後もたくさんあるでしょう。素粒子の標準理論を構築する時に我々が感じた感動や興奮は、これから何回も繰り返されるのです。
素粒子実験
素粒子の反応や性質を実験的に研究する学問、素粒子実験、には大きく2つの研究方法があります。一つは、高いエネルギーに粒子を加速して、新しい粒子や反応を直接探す高エネルギーフロンティアと呼ばれる方法です。もう一つは、新しい素粒子や現象が引き起こす量子効果に着目して、ごく稀に発生する現象(稀現象)を測定する方法です。こちらは大強度フロンティアと呼ばれ、稀な現象であればあるほど高いエネルギーにおける素粒子反応の影響を垣間見ることが可能となります。青木グループでは、稀現象の研究を通して宇宙の謎に挑戦しています。
素粒子実験と最先端技術
今まで誰も見たことがない新しい現象を発見するためには、全く新しい実験手法や技術を開発する必要があります。素粒子実験は、最先端テクノロジーの実験場でもあるのです。青木グループでは、最先端の放射線測定技術やデータ処理技術、量子ビーム技術の研究も行っています。
研究テーマ
- ミューオン・電子転換の研究
- パイ中間子崩壊分岐比の精密測定によるレプトン普遍性の研究
- 高効率ミューオン源 MuSIC を用いた学際研究
- 次世代ミューオン・ニュートリノ源の開発