DeeMe実験は、J-PARC RCSからのパルス陽子ビームを活用したミュー粒子・電子転換過程の探索実験です。DeeMe実験の概念図を図1に示します。パルス陽子ビームが照射される標的では、陽子によって発生した低エネルギーパイオンから発生したミュー粒子の一部が標的に静止する場合があります。このようにして標的中に生成されるミュー粒子炭素原子は、毎秒1010にもなると予想されます。その中にはミュー粒子・電子転換を起こすものもあるかもしれません。標的から放出される電子を二次ビームラインで引き出して、ビームライン出口に設置した電子スペクトロメータで運動量を測ります(図2)。パルス陽子から遅延したタイミングで運動量が105 MeV/cの電子を観測すれば、ミュー粒子・電子転換過程になります。
COMETで実現を目指している最先端の超伝導電磁石システムを必要としない代わりに、COMETよりも早く物理測定を実施できる可能性があります。その代わり、COMETが到達できる究極感度10-17には及びません。標的の材質をSiCにして4年間データを収集すれば5 × 10-15の感度を実現できるポテンシャルはありますが、まずは既存の炭素標的を用いた1年間の測定で1 × 10-13の物理感度を目指しています。これでも、現在の上限値を1-2桁改善することになります。ミュー粒子・電子転換過程は素粒子の標準理論を超えた様々な物理に感度があることを考えると、新しい物理を発見できる可能性はあります。このようにして、J-PARCの設備を最大限に活用して本邦からタイムリーに物理成果を創出しながらミュー粒子・電子転換過程の研究全体を発展・推進して行くことが重要です。
ところで、DeeMeで使用するビームライン(Hライン)は大立体角(110 msr)の汎用ビームラインです。J-PARC MLFでは、DeeMe以外にもHラインを用いたユニークなミュー粒子基礎物理実験が提案されています。

図1 DeeMe実験の基本的なアイデア
図2 HラインとDeeMe実験装置