COMET (Phase-II)

COMET実験は大強度陽子加速器施設J-PARCのハドロン実験ホールで実現しようとしている実験です(図1)。大立体角パイオン捕獲超伝導ソレノイド電磁石とミュー粒子輸送ソレノイドを用いることにより、単位陽子ビームパワーあたりに換算して従来の100万倍の効率でミュー粒子を生成することができ、毎秒7 × 1010個のミュー粒子を使って実験をします。パイオン捕獲電磁石で発生した低エネルギーパイオンを180度カーブした輸送ソレノイドで輸送しながらミュー粒子に変換し、これをミュー粒子静止標的に止めます。ここでもしミュー粒子・電子転換過程が起これば、標的から105 MeVのエネルギーを持った電子が飛び出すので、これをさらに180度のカーブソレノイドで引き出してからストロー飛跡検出器とカロリメータで運動量とエネルギーの測定をします(図2)。約1年のデータ収集により3 × 10-17の確率までならば信号を発見できる実験です。これは現在の上限値を4-5桁も改善する物理感度になります。

米国Fermilabでは、COMETとほぼ同じ実験手法に基づく実験計画(Mu2e)を推進しています。COMETとMu2eで競い合いながら、宇宙の始まりを垣間見る実験の実現を目指しているのです。

図1 COMET Phase-II レイアウト
図2 COMET Phase-II 検出器部カットビュー

COMET Phase-I

COMET実験は、2段階に分けて実現しようとしています。Phase-I(図3)では、半分だけのミュー粒子輸送ソレノイドを用いて、ストロー検出器とカロリメータを使ったビームバックグランドの詳細な研究を行う予定です。この情報をもとにしてPhase-IIのデザインを確かなものとし、確実に10-17レベルでの実験を実現しようとする計画です。また、Phase-IIとは異なる検出器を用いることによって、3 × 10-15の感度での物理測定も行います。Phase-Iで信号を観測することができれば、それに合わせてPhase-IIのデザインを最適化して、Phase-IIではミュー粒子・電子転換過程の詳細な研究が可能となります。

図3 COMET Phase-I