本研究室では、素粒子物理を実験的に研究しています。素粒子物理は、宇宙の成り立ちやありさまを理解することを目的として、宇宙を構成する基本部品である素粒子の種類や反応を研究する学問です。素粒子反応を記述する物理法則を理解するためは日常生活からかけ離れた概念が必要になることも多く、その習得には時間がかかるかもしれません。ですがその一方で、巧妙に組み立てられた「素粒子の法則」のもつ美しさに気づいた時の喜びも大きいのです。


 さて素粒子物理学の実験ですが、実験は、放射線計測、アナログ電子回路、デジタル電子回路、コンピューティング、数学、統計学、機械学習、機械工学、低温工学、加速器科学など幅広い理学・工学分野が融合した学際的・総合的な研究領域になっています。ここで注意してほしいのは、これらすべての知識と技術を持たなければ素粒子物理学実験の研究者になれない、という訳ではないということです。実際はむしろその逆で、自分が得意とする知識や技術を伸ばしてその専門家となれば、他の専門家と力を合わせて素粒子実験の共同研究ができるようになる、と考えてください。


 私自身の経験を紹介します。私は中高生の頃にコンピューターを趣味としており、デジタル論理回路を駆使してマイコンを自作したりしていました。ただそれはあくまでも趣味であって、自分が当時憧れていた素粒子原子核研究者になるためには余計な無駄だと思い込んでいました。ところが大学院で初めて素粒子原子核実験に参加した時に訪れた実験室は、測定器からの信号をデジタル化してコンピューターに取り込む複雑な論理回路で埋め尽くされていたのです。このようにして私は、自分の趣味がキャリアパスに直結する喜びを体験できました。私は、可能であるならば同じような体験を皆さんにも経験してもらいたいと望んでいます。


 あなたが電子回路を得意とする人ならば、放射線検出器からの信号を処理する電子回路の開発を軸にして素粒子実験分野で活躍できます。あなたがコンピュータープログラミングを得意とする人ならば、実験で収集したデジタルデータを解析して物理成果を生み出す部分で活躍できます。素粒子実験で重要なコンピューターシミュレーションでも活躍できるでしょう。あなたが機械工作などを得意とするのであれば、大きな実験装置を設計・製造する部分で活躍できます。国際交流に興味がある人は、青木研で推進している国際共同実験に参加して外国人研究者と共同研究をしてみましょう。物性物理に強い人は、最近の素粒子実験に使用されている先進的な放射線検出器(半導体検出器など)を誰よりも使いこなすことができるでしょう。理論に強い人は、これまで誰も考えなかったような新しい原理に基づく素粒子実験を一緒に考えませんか。現段階で特に得意とする技術もスキルも持っていない人、素粒子物理学実験に興味を示していただきありがとうございます。あなたの「のびしろ」は最大です。研究を進めながら自分の得意技術やスキルを見つけて行きましょう。自分のスタイルにあった様々なやり方で活躍する場所を見つけられるのが素粒子実験なのです。


 大学院で青木グループ・素粒子実験への進学を検討されている方、ちょっと気になっている方、全然考えてもいない(けれどもこの文章を読んでくださった)方、遠慮なく青木までご連絡ください。研究室見学はいつでも受け付けています。青木研が実際に実験を実施している茨城県東海村大強度陽子加速器実験施設(J-PARC)への見学ツアーなども企画するかもしれません。他大学からの入学も大歓迎いたします。